子供っぽい彼を成長させたい
裕子さん(仮名)は25歳。会社で働く事務職であり、同じ年の健太君(仮名)と同棲をしています。
そんな裕子さんの悩みは、仕事をしない彼についてです。
彼とは学生時からの付き合いで昨年より結婚を前提として同棲を始めました。
健太君は大学卒業後職に就いたことがなく、同棲中も日働きのアルバイトをしています。裕子さんは健太君が働く気がないこと、それにもまして、家事すらしないでヒモみたいに一緒に住んでいる彼に対して、結婚への不安を感じ始めました。
そして、子供っぽい彼を一人前にしたいという思いからと、同時に彼女自身の彼嫉妬心にも悩んでおり相談に来られたのでした。
もう少し彼のことを詳しく聞きますと、彼はアルバイトといっても短時間の仕事しかしておらず、バイト代はすべてファミコンに費やしてしまいます。
したがって彼の生活は短時間のアルバイトをしているか、家でファミコンをしているかのどちらかなのです。
裕子さんにして見れば、家事をして欲しいという希望もありますが、どれだけお願いをしても、空返事ばかりです。結局裕子さんが何でもかんでもしてしまうのです。
裕子さんは健太君には、きちんと働いてもらい、家事も分担して欲しい。これが理想のカップルだそうです。
次に嫉妬心の問題です。健太君が飲み会等で少しでも帰りが遅くなると、彼女は心配で心配で何も手につかないのです。
そして浮気をしていないかという嫉妬心が沸いてきて、不安な時間を過ごすのでした。
裕子さん「とにかく彼には側にいて欲しい。何でもしてあげるから」と話します。
彼の魅力をたずねたところ、それは「私がいないと何も出来ないところ」だそうです。
放っておけないようです。
しかし、ここに矛盾を感じます。
彼に働いて自立して欲しいと希望しながらも、少しでも彼が自分の側にいないと「何でもしてあげるそばにいてほしい」といういうのは理解出来ないところです。
それに、彼の魅力が「自分がいないと何も出来ないところ」なのに、なぜ彼に自立を望むのでしょうか。
まず、ここで分かったことは顕在意識のレベルでは、お互い仕事を持った、自立をした者同士の生活を希望しています。
しかし、より詳しく話しを聞くと、潜在意識ではどうも違うようです。
裕子さんにこの2つの意識レベルではまったく正反対のことを望んでいるようですねとお伝えしました。理屈としては納得して頂きましたが、なぜ、そうなってしまうのかは、裕子さんく自身にも分かりませんでした。
ただ、裕子さんの話しを深めて分かったことは、彼女は働くまで実家では、常に孤独感と淋しさを感じていたこと。そして、無価感、無力感を感じていたことでした。
その大きな原因の1つとしては彼女にはアルコール中毒の父親がいて、常に父親の面倒を見てきました。
でも、父は立ち直ることがなく現在は施設に入院しています。
母は裕子さんが中学生の頃離婚。
精神分析でのカップルカウンセリングでは、パートナー選びの基準は親とよく似た異性を選ぶといわれています。
裕子さんの場合ですと、だらしのないアルコール中毒の父と、だらしのない働かない健太君。無意識が似ている彼を選んだのでしょうか。
または、子供の頃父のためと一生懸命尽くしたのに、結局立ち直れなかった父。
その無力感を今度は働かない、子供っぽい健太君の自立支援を通して、くつがえそうとしているのでしょうか。
しかし、そうは言いながらも、彼が少しでも家に帰って来るのが遅いと、過剰な嫉妬心を感じています。この嫉妬心は独占欲の裏返しでしょう。
健太君をなぜ、そこまで独占したいのでしょうか。「彼に何でもして尽くす」ということは彼を縛りつけようという意図すら感じます。そして、彼のことを「私がいないと何も出来ない」と健太君の能力を見下しています。
子供を独占するのは親の心理です。裕子さんの場合も子供っぽい彼の世話をして、何でもしてあげて、彼を無力にしてしまい、彼を独占しようと思っているのかもしれないのです。
また、彼の世話をすることから、自己価値を維持していることも考えられます。
このように考えますと今回の問題は、働かない、ファミコンばかりしている健太君を選んだ裕子さんの問題のようにも思えます。
それに、本当に彼が自立したら、母親役の裕子さんは必要なくなるでしょう。
健太君が変わると同時に裕子さんも代わらなければカップルは崩壊してしまうのです。