妻が母親に似てきた
先日ある夫婦と話しをしました。(達彦さん32歳 香住さん30歳 結婚7年 2歳の子供あり)
そして、私に対して達彦さんは猛然と話し出しました。話しの内容は香住さんが自分の母親そっくりになってきたということでした。
彼によると、彼女に魅かれたのは天真爛漫とした明るさであったのに、ここ数年(とくに子供が生まれてから子供に対しても小言が多い)彼女は、小言や批判が多く、まったく自分の母親の嫌な面をそのまま見ているようであり、彼女を見ていると不愉快になるということでした。
彼は更に言いました
「確か恋人や好きになる人は、異性の親の面影を見るという説があると聞きましたが、本当にそうなのですね。香住がここまで僕の母親に似ていたとは」
そうです。確かにフロイトは恋する相手は異性の親に似た人を選ぶと言っています。しかし、私は精神分析派のカウンセラ−でも、フロイトを支持しているカウンセラ−でもありませんので、この説には興味ありません。
そして、彼の話しにも納得出来ないところがあります。
彼女はもともとも天真爛漫であった。
しかし、今の彼女は小言、批判が多いということです。
これは、彼女が結婚数年で正反対の性格に変わってしまったことを意味しています。なぜ、彼女は変わってしまったのでしょうか。
達彦さんが無意識に母親に似ている女性を嗅ぎわけ彼女を選び、自然と彼女が達彦さんの母親のようになってきたとは考えにくいのです。
何かあるはずです。
香住さんに結婚当初から今までを聞いてみました。
「私はものごとあまり深く考えず、何でもなるようになると楽感的なタイプでした。しかし、結婚をしてから自分でも変わってしまったと思っています。その原因は夫だと思います。彼はすべてに細かく、心配性なのです。例えば家事をしていて少しでも無駄に水を使っていると水道代がどうとか、やたらチェックをしてきます。また、ドライブで私が車を運転していて道が少しでも細なってくると、この先は行き止まりになっているかもしれない、または、道が細くて対向車が来たらバックをしなければならないかもしれない、バックは危ない怪我のもとだ。行き先も変更だ。と、まあ。こんな具合です。
私が楽しみにしていたドライブも彼の弱気の心配性のために台無しです。
それ以外たくさんあります。とにかく夫は私のやることすべてに顔を突っ込んで、あれはダメ。これは危ないと。結婚7年間私の好きにさせてくれないのです。結婚当初は家計のことや私のことを心配してくれているのだと思っていましたが、何かもう最近はうっとうしいだけで、なるべく夫の気に入るようにと考え、彼の小言を聞かないように、あえて、几帳面にこまかく動いています。その結果子供に対するしつけも厳しくなったりと、小言も多くなるのです」
私は再度達彦さんに話しました。
「奥さんの話しを伺っていますと。達彦さん、あなたの普段の細かいチェックや、やたら心配することで、香住さんを縛ってしまい、香住さんの天真爛漫とした、あまりものごと気にかけない性格のプラス面を奪ってしまった。そんな感じがするのですが、どうですか」
しばらくの沈黙の後、達彦さんは話し始めました。
「確かにそうですね。僕は香住にあれはこうしろ、これはダメだかと、細かく日々言ってきました。しかし、ここ数年は彼女は何でもきちっとしてくれており、僕はあまり口を出す必要がありませんでした。でも、そうか・・・それは僕が彼女を教育したというか、洗脳してしまったのかなぁ−。彼女のいいところを潰してしまったのか。僕が彼女を自分の母親のようにしてしまったのですね」
達彦さんは香住さんがなぜ変わってしまったか理解しはじめたようでした。
ここで、まだ、カウンセリングは終わりません。
もう一度私は達彦さんに訊ねました。
「達彦さん、あなたのお母さんはなぜそんなにあなたに、小言や批判が多かったのでしょうか」
また、しばらくして達彦さんは話し出しました。
「母親は基本的に心配性なのです。これは危ない、あれはダメとか、何とか自分のテリトリ−内で僕を育てたかった。心配性なので常に自分の目の届くところに僕を置いていたかった。また、同時に几帳面、倹約家でもあり、僕は随分小言を言われました」
「ん−。そうか。そうすると僕は母と同じことを香住にしていたんだ。と、言うことは香住が母親に似ているのではなく、僕が母親とそっくりで、その僕が香住にあれやこれやと言って彼女を母親と同じようにしてしまった。こうなるのですよね」
そうです。達彦さん。あなたがお母さんからマイナスの部分を受け継ぎ、それを自分の中に取り込んでしまい、今度は香住さんに、あなたのお母さんの価値観や、心配性の性格を植え込んだのです。母親の細かい几帳面で批判的な性格が嫌で、正反対の性格の香住さんを選んだのに、あなたが彼女を母親と同じような性格に変えたのです。
でも、香住さん自身言っているように、達彦さんに小言を言われるのが嫌で、自分から意識的に几帳面に振舞っているので、彼女はあなたに洗脳されてはいません。あまり、彼女に小言を言わずに彼女の本来持っている、楽観的な天真爛漫さを尊重してあげたらどうですか。
そうすれば、達彦さんの几帳面さと、香住さんの楽観さがバランスよく、夫婦として機能するのではないでしょうか。