結婚をする前に母と和解したい

亜樹さん(仮名 38歳)は、3ヶ月後に結婚を控えていますが、彼女には結婚前にやっておきたいことがありました。それは、子供の頃から険悪である、母親(65歳)との和解です。

カウンセリングでなぜ、亜樹さんと母親との仲が険悪なのかを尋ねました。
亜樹さんは
「母とは私がもの心ついた、中学生ぐらいの時からほとんど話していません。なぜなら、母は私に何でも強制させるからです。そして、私の言うことには一切耳を貸してくれませんでした」
私が亜樹さんにお母さんの強制とは、例えばどんなことですかと尋ねると
「そうですね。私は小学生の時から軟式テニスが大好きでした。中学生になったら硬式テニスをしようと、テニス友達と約束していました。

でも、中学校に進んだとたん、母は勉強、勉強とうるさくなり、私を無理やり塾に押し込めました。その、結果硬式テニスは出来なくなり、仲の良かった友達数人とは、距離が開いてしまい、友達のいない中学生になってしまいました。
もちろん、他に友達を作ろうとしましたが、母の早く家に帰って勉強しなさいに脅されて、つまらない青春時代でした」

亜樹さんから見るとこれは、ほんの一例に過ぎないのですが、亜樹さんは3ヶ月後に結婚、その前に年老いた母と仲直りがしたかったのでした。
「母は年だし、今、仲直りをしたいと、嫁いでしまった後ではあまり会えないし、今が仲直りをする最後のチャンスと思ったのです。母とはいろいろとありましたが私を育ててくれたのは事実です。だから昔を振り返って腹ただしい半面感謝もしています」

「それに、今母と仲直りしておかないと、今度私に子供が生まれた時、私とその子供が、私と母との関係になってしまうようで心配なのです。ですから、今後の私の幸せな家庭生活のためにも、今仲直りしておきたいのです」


でも、亜樹さんはお母さんと仲直りがしたいという気持ちと裏腹に、お母さんの声を聞くとイライラしてきて、まともな会話が出来ないのでした。
私….
「なぜお母さんの声を聞くとイライラするの」
亜樹さん….
「何ていうか、母の声を聞くと心が遮断してしまう。聞きたくない・・・」
「自動的に無意識にそんな風に勝手に反応してしまうのです」

私….
「そう、亜樹さんはお母さんとの仲直りっ言うけど、具体的にどうしたいの」
亜樹さん….
「そうですね。普通に話したいです。母は今、あれこれ私に指示はしないのですけど、
私は勝手に過剰に反応してしまって喧嘩腰になってしまうのです。だから、普通に話したい。イライラしないで」

亜樹さんはお母さんと普通に話したいのでした。
ここで、亜樹さんの問題を整理しましょう。(これは亜樹さんといろいろ話しあって分かったことですが)
亜樹さんは子供の頃よりお母さんに無理やりいろいろなことを習わせられたり、ガミガミ言われてきました。

亜樹さんは、どちらかというとおとなしい性格ですので、かなり母親に言われることを我慢してきました。また、言われたことについて、彼女なりに我慢をして応えてきました。

しかし、これが今回の一番の問題だったのです。

自分の意思を抑えて、お母さんの期待・価値に合わせて生きてきたため、「もう、これ以上何も言われたくない」と亜樹さんの心はお母さんを拒んでしまっていたのです。

ですから、お母さんが普通に亜樹さんに話しかけてきても、亜樹さんは、また、要求されるのでは等、
「もう、これ以上は要求されたくない、放っておいてくれ」と無意識のうちに、内心怒り満ちて対応していたのでした。
イライラは怒りから生じます。

お母さんに対する怒りです。
いや、正確に言うと子供の頃ガミガミ要求してきて、何でも無理やり強制させたお母さんに対する怒りです。

私は亜樹さんに今後のこともあるので尋ねてみました。
「亜樹さんは、お母さんと普通に話しがしたいのですよね。で、問題は亜樹さんが普通にお母さんと話すことが出来ず、イライラしたり、喧嘩腰になることですよね。
これは亜樹さんの問題ですよね。

今のお母さんは別に亜樹さんに何も言ってこない、でも、亜樹さんの心は傷ついた子供のままであり、その子供の頃の心で今に反応している、だから、また、お母さんから何か言われるのではと、怒りのエネルギ−、または、そんなお母さんを遮断したいという気持ちから、イライラや喧嘩腰の態度が生ずるのですよね」

「一番大切なことはあなたが、今のお母さんに対して、今のあなたとして接することですね」

「そのためにどうしましょう。一度過去に戻って、なぜ、お母さんが亜樹さんにたくさんのことを言ってきたか、お母さんの当時の気持ちを理解してみますか。それとも、あなたがお母さんに本当にして欲しかったこと、かけて欲しかった言葉等を振り返って、子供の頃言えなかったことを今言ってみて、過去を癒しますか、すなわち過去との和解です」

しかし、亜樹さんは言いました。
「先生、私は過去のことはどうでもいいのです。今を何とかしたい、そして、これからを」

「私は3ヶ月後に結婚をします。今は結婚の準備で大変忙しいのです。ですから、過去よりも今をすぐになんとかしたいのです。普通にわだかまりなく話しが出来るようになりたいのです」

亜樹さんの要望はよく分かりました。
そこで、2人で今後どのようにしていこうかという話しをしました。

まず、話しをする=コミュニケ−ションと言葉を置き換えました

なぜ、言葉を置き換えたかというと、話しをするということでカウンセリングを続けると、目標が固定化されすぎカウンセリングがふくらまないと思ったからです。(言葉を変えないとカウンセリングが行き詰ると感じたのです)

そして、コミュニケ−ションにはいろいろんな方法があります。
話しをする。目と目を合わす。笑顔。体に触る等です。亜樹さんは今のところお母さんに対して目と目を合わす、笑顔は無理なようであり、また、体を触るも不自然です

いろいろと2人で考えた結果、お手伝いをする、プレゼントをすることを決めました。

要はコミュニケ−ションとは相手に対する行動でもいいのです。
具体的には、食後のお皿洗いは亜樹さんが自分で率先してすると行動目標を決めました。
こうすると、お母さんの亜樹さんへの最初の言葉は「ありがとう」から始まります。

すると、今までのようにいきなり話題に入るのではなく、ワンクッション言葉が置かれたことにより、即過剰反応しなくなるのではと考えたのです。
また、お母さんが来月お誕生日であることにも注目し、誕生日のプレゼントをすることにしました。

すなわち、お母さんに思いやりの気持ちを示すことで、自分のお母さんに対する気持ちも緩和され、今までの怒りに満ちた気持ちも徐徐におだやかになるのではと考えたのです。

どこまで、この行動によるコミュニケ−ションが亜樹さんの心を穏やかに優しくさせるかは、今のところ分かりませんが、亜樹さんは「何か希望が持てそう、やってみます」とル−ムを後にされたのでした。

誰かと仲直りがしたい。この言葉を、誰かを許したいと置き換えてもいいのかもしれません。

そして、不変の真理。
誰かを許すということは、実は、あなたがあなた自身を許ことなのです。
許すとは誰かのためではなく、あなた自身のために必要なことなのです。

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